ドイツの教育関連視察ツアー二日目。
イスマニング(Ismaning)にある「ルードルフ・シュタイナー学校 自由ヴァルドルフ学校(Rudolf Steiner-Schule Freie Waldorfschule)」を訪問しました。
私は今までシュタイナー教育とは縁のない生活を送っていましたので、見るもの聞くもの感じるものがすべて新しい世界でした。
● エポック授業 2年生 7歳から8歳 (8時10分から9時55分)
淡い日差しと先生が鳴らす鉄琴の響きと子供たちのエポックノートの色使い。
これだけで私は柔らかな光に包まれながら子供たちと一緒に授業を受けている気分になりました。
先生は、鉄琴を優しく鳴らして、子供たちを集中させます。
授業中、子供たちが騒がしくなってくると、鉄琴を鳴らして落ち着かせていました。
祭壇のような四季の飾りもの(Jahreszeitentisch)の上にあるローソクに火を灯し、先生の机の上のローソクにも火を灯します。
太陽、星、水の歌を歌い、最後に妖精が出てきました。先生の優しい指使いを見て、妖精が本当にいるようだと思いました。
丸い列を組んで、机の周りを、前後に回りながら、数字の勉強をします。
例えば、「3の位の数字が来たら足踏みしましょう」
その後、先生が音読する文章問題に入ります。
例えば、「私は8個のどんぐりを持っていました。今は6個持っています。リスさんは何個持って行ったでしょうか?」
子供たちは集中して聞きながら答えの数字を考えます。
答えは子供たちに言わせるのではなくて、胸の前で正解の数字を指で作らせます。
そして、黒板を軽くノックして数字を当てさせ、足し算と引き算を勉強します。
例えば、右側の黒板を3回不定期にノックして、左側の「+」と書かれてある黒板を4回不定期にノックして、「3+4=7」という数字を導きださせます。
その後、子供たちは、黒板に書かれた月の絵と数式を、エポックノートに写します。
新しく習う数式の横には、赤い花が描かれていて、その花も子供たちはノートに写し取ります。
そして、子供たちはクレヨンを使って思い思いに数字と答えを書き込んでいきます。
45分間、算数の勉強をした後、詩の朗読時間に入ります。
三人の子供たちが、先生からもらった自分の詩を暗記して読み上げます。
この日は火曜日生まれの子供の番でした。
30分後、再び歌を歌って「Brotzeit」の時間になりました。
歌で始まって、歌で終わるエポック授業。身体を使って算数を学ぶ姿にとても驚きました。
20分の休憩時間に行くとき、先生は一人ひとり子供の名前を呼び、教室のドア前でお見送りします。
子供たち一人ひとりを先生がちゃんと見ているという姿が印象に残りました。
● 1限目 オイリュトミー 6年生 12歳から13歳(10:15 - 11:00)
オイリュトミーシューズをはいて、つま先を動かし、前に数歩、後ろに数歩、動いてウオーミングアップします。
子供たちは、ピアノのテンポに合わせて輪になって踊ったり、16歩横に動いたり、交差したりします。
子供たちは、先生が読み上げるゲーテの詩と、ピアノの音とテンポ、ホワイトボードに書かれてあるステップに注意しながら踊ります。
オイリュトミーは、先生の指示に従いながらも、音楽に合わせてシステマチックに身体を動かさなければならないので、ハードな運動だと感じました。
そして、オイリュトミーのピアノ伴奏者の方は、先生の指示を忠実に守りながらも、ピアノのテクニックが要求されるので、質の高いお仕事がだなあと思いました。
オイリュトミーの先生はオイリュトミストで、しなやかな身体つきでした。思春期の男の子たちに、「君が中心で地球が回っているんじゃないんだぞ」や、「体内の目覚まし時計を鳴らせなさい。身体が眠ったままでは間違ってしまうよ」と注意していました。
ウオーミングアップで慣らされた身体が、授業の最後にはみんながオイリュトミーの世界に没頭して形を作っていく姿に見入ってしまいました。
● 2限目 音楽 13年生 19歳から20歳(11:05 - 11:50)
シュタイナー学校の生徒は、アビトゥーアを受ける前に、1~2年の準備期間が必要です。
そして、アビトゥーアに合格するためには、通常4教科に対して、8教科に合格しなければなりません。その中の一つの科目が音楽なのです。
モーツアルトの楽譜の和音の話は音楽用語だらけでしたが、「魔笛」の音楽鑑賞は歌声が美しくうっとりしてしまいました。
音楽の先生がピアノを時々弾いたり歌ったりして、情熱的に子供たちに教えられる姿が印象に残りました。
● 3限目 フランス語 4年生 9歳から10歳 (12:05 - 12:40)
フランス人の先生が、ドイツ語とフランス語を交えながら、子供たちにフランス語を教えます。
身体の部位に触れながら、順番にリズミカルに部位の名称をフランス語で言っていきます。
「頭」、「首」、「腕」のように一つずつ部位を触りながら名称を言って、「頭」から「足」まで全部言えたら、今度は「足」から「頭」まで逆に言います。
フランス語がまったくわからない私には難しかったのですが、子供たちは何度も練習しているためかとても上手でした。
先生が黒板に、横向きに走る人物の絵を描きました。
子供たちもエポックノートに思い思いの人物画も描きます。
次の授業では、人物が描かれてあるページには矢印と数字だけを書いて、裏のページにその数字が示す部位の名称を書き込んでいきます。
先生いわく、一年生から三年生までは耳から聞いて覚え、四年生から書く練習を始めるそうです。
とっても優しそうなフランス人の先生でしたので、私も先生からフランス語を学びたいなあ~ってちょっと思ってしまいました。
● 4限目 オイリュトミー 10年生 16歳から17歳(12:45 - 13:30)
先生とピアノ伴奏者は、1限目と同じ方たちで、1限目に見た子供たちの動きよりも更に進化している子供たちの動きに、6年生と10年生の違いを見ました。
先生がホワイトボードに書かれた足の動きに注意しながら、子供たちは形を作っていきます。
Rose Auslaender(ローゼ・アウスレンダー)が作った「Mittelpunkt Mein Atem heisst jetzt」に、先生が足の動きをつけて、子供たちが八の字を作りながら交差し回っていきます。
Welcher Stern
ist Mittelpunkt
des Himmels
Erde
nicht du.
Aber du
Mensch
bist Mittelpunkt
der Erde.
先生は私に言いました。
『「A」、「I」、「U」、「E」、「O」の母音を声帯に合わせて、広げたり、引き締めたりする動きをつけるので、「オイリュトミーは見える言葉だ(sichtbare Sprache)なんですよ。日本語のオイリュトミーをご覧になられるのもおもしろいと思いますよ』
● 園芸 10年生 16歳から17歳 (14:15 - 15:15)
「木の伐採週間」が始まるらしく、「自分の采配でリンゴの木を切ることが最終的な目的」と、先生は子供たちに伝えます。
先生は最初に、「私たちはなぜ描くのか?」と、子供たちは質問を投げかけます。
子供たちは学んできた答えを伝えます。まとめると「細部までちゃんと見て知覚するため」
先生は続けます。「自由とはなんだろうか。自由に決断をするとはどういうことなのだろうか」
子供たちは「自由とは自分の思い通りにできること」とか、「ルート66の世界が自由」と答えます。
先生は、「欲求が動機づけで直感的に決断することは自由な決断とは言えない。概念がないことは、知覚ではない。自覚や意識を発達させることができる。自覚や意識は自由の中にある」と、言葉をたくさん並べていきます。
最終的には、「感情を五感のように発展させることにより、知覚したことが動機となって行動できたとき、私たちは自由な決断をしたことになる」と先生は言いました。
子供たちへの課題として、プラトンの「洞窟の寓話」のプリントが渡されました。
先生の話を聞きながら、私はたくさんメモを取り、家に帰って何度も何度も読み返してみたのですが、先生が何を一番に伝えたかったのか、理解するのに時間がかかりました。
それは「シュタイナーの自由の哲学」だったのです。
今もこうやってまとめながら、ルドルフ・シュタイナーが考える「自由」の定義が何なのか模索している状態です。
先生も「自由」は深いテーマで難解だとおっしゃっていたのですが、そのとおりだと思います。
もっともっとシュタイナー教育のことを勉強したいと思っています。